I Didn't Know My Own Strength

15日,「ロックの殿堂」により2020年の殿堂入りアーティストが発表され,デペッシュ・モード,ナイン・インチ・ネイルズ,ホイットニー・ヒューストン,ドゥービー・ブラザース,ノトーリアス・B.I.G.T・レックス,計6組のアーティストがロックの歴史に新たにその名を刻むこととなった。個人的に最も感慨深いのはもちろんデペッシュ・モードということになるが,ホイットニー・ヒューストンの選出もまた非常に興味深い。
 
2000年代に入ってからの凋落はともかく,80年代以降のポップ・シーンにおける女性シンガーの歌唱力にフォーカスすれば,ホイットニーとマライア・キャリー,クランベリーズのドロレス・オリオーダンがやはり別格だと僕は考えていて,とりわけ,ここ日本でも当時の洋楽史上最高の280万枚というスーパー・セールスを記録したホイットニーの I Will Always Love You90年代最高のラヴ・ソングの1つだと思っている。
 
その I Will Always Love You を筆頭に,Saving All My Love for youGreatest Love of AllDidn't We Almost Have It AllIt's Not Right But It's OkayMy Love Is Your Love など彼女が残した名曲の数々は枚挙に暇がないわけだが,今日は敢えてこの曲を取り上げたい。
 
Whitney Houston - I Didn't Know My Own Strength - 2009
 
遺作となった2009年の 7th アルバム I Look to You 収録曲。当初はリード・シングルとしてのリリースが予定されていたものの,レーベルの意向でタイトル・トラック I Look to YouMillion Dollar Bill2曲のシングルに続くプロモーション・シングルとしてデジタル配信された。
 
身も蓋もない話にはなってしまうのだが,アリシア・キーズ,R. ケリー,ダイアン・ウォーレン,デイヴィッド・フォスターなど錚々たる顔ぶれがライターに名を連ねた収録曲の良し悪しは別にして,全米No.1,全英でも最高3位を記録した I Look to You に対する僕の評価は極めて低く,一言で言えば無残というか悲惨なアルバム。年齢による衰えなのか,はたまた長きに渡るアルコールやドラッグ依存が及ぼした悪影響なのか,前述の名シングルに聴かれた見事なヴォーカリゼーションはすっかり影を潜め,声域,声量,声質,全てにおいて惨めに枯れ果てた往年の名歌手といった趣だ。
 
だが,それゆえ,このプロモーション・シングルは今なお強く僕の胸を打つ。
 
私は自分がどんなに強いか知らなかったの/私は崩れ落ちた/でも/散り果てることはなかった/
全ての痛みを乗り越えた/私は自分がどんなに強いか知らなかったの/
どん底の暗闇を生き抜き/そして/信念が私を生かし続けた/立ち上がって/前を向いて/
私は壊れるために生まれたわけじゃない/私は自分がどんなに強いか知らなかったの…
 
この曲のソングライトを手掛けたダイアン・ウォーレンの意図がどうあったにせよ,苦難を乗り越え立ち上がろうとする曲中の主人公の独白は,ドラッグ所持によるハワイでの逮捕劇,その後の不摂生による健康状態の悪化,ボビー・ブラウンとの離婚など多くのトラブルを抱えてキャリアの危機にあったホイットニーの姿と重なりあまりに感動的。
 
全盛期の彼女の声で聴きたかったというのはもはや叶わぬ本音だが,多くのヒット・シングルと共にこの曲もまた長く僕の記憶に残る1曲となるだろう。
 

 
 

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