The Smiths

「『アンハッピー・バースデー』は素晴らしい曲だよ。僕の曲にあんな歌詞を書けるのは
モリッシーだけだし,彼にあんな曲を書けるのも僕だけさ(ジョニー・マー)」
 
多感な思春期,僕の音楽観,人生観に決定的な影響を与えたバンドがザ・スミスだった。1982年,スティーヴン・パトリック・モリッシーとジョニー・マーという2人の青年によって結成されたザ・スミス。
 
「僕の人生最大の危機は郵便料金が上がった時だよ」と話すほど音楽雑誌への投稿に入れ込み,暗く自閉的な生活を送るモリッシー。アングラ・ファッションの洋服屋で働くかたわら作曲に精を出すジョニー。ニューヨーク・ドールズのファン・クラブで知り合った2人が共に曲作りに取り組み始めたことでザ・スミスの歴史は幕を開ける。
 
モリッシー Morrissey /ヴォーカル
ジョニー・マー Johnny Marr /ギター
アンディ・ルーク Andy Rourke /ベース
マイク・ジョイス Mike Joyce /ドラム
 
稀代のギタリスト,ジョニー・マーという格好のパートナーを得て表現者としての自由を手に入れたモリッシーは,声高に弱者の抵抗を叫び始める。時に自虐的とも思えるほど惨めで辛辣かつ極めて文学的なそのリリックは,ジョニーが紡ぐ瑞々しくも繊細でロマンティックこの上ないメロディによって一層強く輝き始める。
 
1st Album: The Smiths - 1984
 
Compilation Album: Hatful of Hollow - 1984
 
2nd Album: Meat Is Murder - 1985
 
3rd Album: The Queen Is Dead - 1986
 
徹底した弱者視点で描かれるリリックがアルバム・リリースの度に物議を醸すモリッシーの詞作と天才・ジョニー・マーの奇跡的とも言えるコンビネーションは,3rd アルバム The Queen Is Dead で絶頂を迎える。
 
叙情的なイントロに突如として攻撃的なドラムが割って入り,その後,ジョニーのギターが荒れ狂う The Queen Is Dead で幕を開けた後,ポップ,ロック,パンク,ロカビリー等,あらゆるジャンルを飲み込んで掻き鳴らされる千変万化の楽曲群は,名曲 There Is a Light That Never Goes Out でアルバム最大のハイライトを迎える。
 
ロックの新たな領域を開拓したこの稀代の傑作アルバムによって,ザ・スミスへの支持は不動のものとなっていく。
 
Compilation Album: The World Won't Listen - 1987

Compilation Album: Louder Than Bombs - 1987
 
その後リリースされた4枚のシングルと2枚のコンピレーション・アルバムはいずれも好意的に迎えられて英米で好調なセールスを見せたものの,メンバー間の意見の相違,特にモリッシーとジョニーの間の緊張は日増しに高まり,次第にバンドは分裂の危機を迎えるようになる。
 
モリッシーがジョニーと他のミュージシャンとの仕事を嫌ったこと,ジョニーがモリッシーの音楽的柔軟性のなさに苛立っていたことなどが理由に挙げられているが,ジョニーは後に「メンバー間の確執が原因ではなく,音楽的視野を広げるためにバンドを去った」と述べている。
 
4th Album: Strangeways, Here We Come - 1987
 
19878月,NMEの記事「分裂に向かうスミス」をきっかけに2人の対立は遂に頂点へ…。既にレコーディングを終えていた 4th アルバム Strangeways, Here We Come のリリースを最後にザ・スミスはそのあまりに短い歴史に幕を下ろす。
 
Live Album: Rank - 1988
 
「ザ・スミスは美しい存在だった。ジョニーが出て行き,その後,マイクが壊してしまったのさ(モリッシー)」
 
1996年,解散後初めて4人が顔を揃えたのは法廷だった。法廷は,ザ・スミスのレコーディングおよびライヴに関わる利益の10%しか利益を得てこなかったとするマイク・ジョイスの訴えを認め,彼が新たに100万ポンドを受け取ること,以後,ザ・スミスの25%の権利を有することを認める判決を下す。
 
「素晴らしい旅は終わった。僕は続けたかったけど,ジョニーはそれを望まなかったんだ(モリッシー)」
 
それまでロックが見向きもしなかった弱者の存在をかくも美しく描き上げたザ・スミス。
 
この矛盾社会に対して,例えばオアシスのようなロックンロール・ヒーローとは真逆のベクトルを持って決して報われることのない抵抗を続けた彼らこそが,「暗黒期」と揶揄される1980年代のUKロック・シーンにおける「真の」ロック・バンドだったとは言えないだろうか。
 
軟弱な若者の現実逃避,惨めな敗北者の自己弁護…。ザ・スミスのサウンドをいずれは卒業すべきものと考える向きがあるのも事実だが,僕はいまだ彼らから卒業できずにいるわけだ。

 

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