The Way It Is

Bruce Hornsby and the Range - The Way It Is - 1986
 
ヒューイ・ルイスに見出されてRCAと契約したブルース・ホーンズビーがザ・レインジ名義でリリースした1986年の同名 1st アルバムからの 2nd シングル。全英最高15位,見事No.1を記録した全米では年間チャートでも8位となった。
 
名門バークリー音楽大学に学び,ザ・レインジ解散後はグレイトフル・デッドのキーボーディストとしても活躍するなどセッション・ミュージシャンとしても評価の高いブルースの独特のピアノの音色(詳しくは後述する)が何とも印象的な1曲だが,そのリリックはなかなかに辛辣。
 
生活保護を求めて/長蛇の列に並ぶ/仕事は買うことができないから/
シルクのスーツを着た男が/足早にすれ違う/
貧しい老婦人と目が合うと/彼は蔑むように言った/「仕事をしろよ」/
そんなものさ/多くは変わらない/そんなものさ/それでも/奴らを信じるのかい?
 
長引く不況が暗い影を落としていた1986年当時のアメリカ社会をリアルに描いたこの曲のリリックは,公民権運動,さらには根強く残る人種差別の真実をも鮮明に炙り出す。
 
奴らは言う/おまえらは俺たちのようにどこにでも行けるわけじゃない/ふさわしくないからな/
少年が言い返す/どうしてそんなふうに考えるの?/ルールを作る前に/ちゃんと考えたの?/「このガキが…」/
そんなものさ/多くは変わらない/そんなものさ/それでも/奴らを信じるのかい?
 
このシリアスなリリックが不満を抱えた大衆心理を掴んだというのが一般的な見方ではあるのだろうが,やはり最大のハイライトはブルースのピアノ ということになる。
 
ロック,クラシック,ジャズ,ブルース,フォーク,ブルーグラス etc... あらゆるジャンルを吸収して独自の解釈で構築される彼の即興的演奏は,どこか南部の匂いを漂わせながら実に独創的に響く。近年のライヴではバッハのゴルトベルク変奏曲を盛り込んでこの曲が演奏されるそうだが,これもリッチモンド大学,マイアミ大学,さらには冒頭に述べたバークリー音楽大学で学んだブルースの確かなバックボーンと常に自身のピアノのネクスト・レヴェルを目指す貪欲な探究心の為せる業なのだろう。(僕自身,彼を真似て鍵盤を叩いてみたりもするわけだが,当然ながら彼のようなサウンドを奏でられようはずもない。)
 
ともかくも,ブルース・ホーンズビーの見事なプレイと共に今なお強く僕の心に残る1曲だ。
 
 
 

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